Sugarless 人がそれぞれ歩む道 その道を変えるのは紛れも無く自分自身で 誰にも阻む事などは出来ない だから…自分を信じて 一歩を踏み出す 「不二…越前は来るのか?」 「分からない…。でも、来るには来ると思うよ。」 どこか曖昧さを感じる言葉で笑顔を作る不二。 手塚は不思議そうな顔をした。 「…お前にしては消極的だな。」 「こればかりは越前の意思だからね。」 「それもそうだな…。」 「スイマセン!遅れましたっ!」 全速で駆け寄り、大声で謝る越前。 その姿に二人は少なからず驚いた。 「越前…本当にいいのか?」 「後悔はしない?…まだ、選べるよ?」 念のため…と確認を取る二人に、リョーマは苦笑した。 「平気っすよ。…もう、いいです。」 悲しみに溢れた表情に、詳しい事情を知らない手塚さえ心苦しくなった。 「じゃあ、行こうか?」 「うぃ〜す…。」 「待って!おチビ…!!!」 「…英二…先輩?」 後方から響く、大好きな声。 振り返ると、息を切らして此方に向かって来る菊丸が居た。 「…おチビ…!俺、おチビに行ってほしくないっ!」 「先輩…。」 「俺…おチビに酷い事ばっかりしてた…!でも…やっぱり辛いんだ…離れると…。」 徐々に小さくなる声に、リョーマは心を痛めた。 …自分の行く道は、間違いではないかと… 「先輩…、でも…俺………。」 不意に、リョーマの背中を押す手。 誰かと見ると、紛れも無く不二のものだった。 「不二先輩…?」 「…行きなよ。君が進むべき道は…僕等とは違うみたいだから…。」 明らかに無理な笑顔を向けてくる不二に、リョーマは返す言葉が無かった。 「…ね?僕の為にも…行って?」 トンッと押された弾みで、菊丸の腕へダイブするリョーマ。 その間に、不二は手塚を連れてその場を離れるのだった。 「不二先輩!…俺…楽しかったから!先輩が居てくれて嬉しかったからっ!」 もう涙で濡れている頬を拭いながら、声にならない声で叫ぶ。 しかし不二は、その言葉に答える事無く立ち去った。 「不二…これで良かったのか?」 「うん。越前に興味なくなっちゃったんだ。」 いつもの笑顔。しかし声を震わせて言った。 「…無理をするな。俺の前でまで、自分を作ろうとするな…。」 「ごめんね…ちょっとだけ胸貸してね……?」 手塚の胸で泣きじゃくる不二に、その体を優しく撫でる手塚。 この時点で新たな恋が芽生えた事に、二人はまだ気付かない…。 「お前には…結果が分かっていたのだろう?」 「まぁ…ね。でもね、手塚…」 "人間、悪足掻きはしたくなるものなんだよ?例え思い通りにならなくても…ね″ 「…今頃、不二達は飛行機の中だね。」 「…そうっすね…。」 まだ抱き合った体勢のままで…でもお互い離れる気にはならなくて。 「おチビ…本当にコッチで良かったの…?」 「判らない…。自分にとって何が一番必要なのか…。」 安らぎと信頼を与えてくれた不二先輩 圧倒的な強さで自分にテニスを魅せた手塚部長 じゃあ…英二先輩は……? 「…大事な人を、教えてもらったっす…。」 「え…?」 「誰よりも…大事な人…。愛すべき人が分かった…。」 菊丸に抱きついたまま、涙を流すリョーマ。 その体を愛しそうに抱く菊丸。 しんみりとした空気が辺りを包んだ。 「俺もおチビに…恋愛を教えてもらったよ。自分がしてきた事が半端だった事も…。」 「英二先輩…俺、先輩の事が…」 不意に唇に触れる感触。 それが菊丸の唇である事になかなか気付けなかった。 「せ、んぱい…?」 「その先は、俺に言わせてね?」 キュッと抱き締める力を強め、微笑を浮かべる菊丸。 「愛してるよ、おチビ。ううん…リョーマ…」 「先輩…!やっぱり…俺、間違ってなかったよ…?」 「ん?何?」 「先輩と同じ道歩くのが…一番良いと思う。」 目を細めるリョーマに応えるように、唇を合わせる菊丸。 「俺達は…俺達の道を進もうね。」 「うん…。これからは一緒、だもんね。」 微笑み合って、キスをして… 途中立ち止まりながら俺達は歩いて行くんだ。 この道に続く、果てない未来の為に… 「先輩…有難う。」 「ん…俺の方だよ、お礼を言わなきゃいけないのは…」 "本気の恋を教えてくれて、有難う″ お互いの心に宿る、感謝と自責の念。 今はただ、時の中に身を置きたい…。 「Sugarless」=「無糖」 俺達の間に甘さは要らない。 苦味を堪えながら、その味を美味しいと思えるようになりたい。 甘いだけの恋には、いつか飽きがきてしまうから… 俺達が甘さを求めないのは「恋」のおかげ。 いつまでも満腹を感じさせない蜜を知ってしまったから。 「いつかリョーマも…世界に行っちゃうんだよね…。」 「勿論行くよ。…二人一緒にね。」 「そだね、俺も頑張らないと!」 Sugarless…そんな言葉を胸に抱きとめながら 愛しい者の隣を歩き続けられるように… いつまでも…この苦さを記憶して… |